「働き方改革法案」を政府が進める目的は、「労働者が働きやすい環境を整備することで、低迷する日本経済を立て直す」ということにあります。

そもそも「働き方改革法案」とは何なのか。
必要になった背景や概要、改革の重要なポイントなどについてご紹介します。

働き方改革法案とは?

働き方改革法案画像働き方改革関連法案」は2018年5月31日に衆議院で、同年6月29日には参議院でそれぞれ可決され、成立しました。

2019年4月から順次、労働基準法を始めとする関連法令の改正が施行されます。
改正事項により時期は異なりますが、法改正に伴い人事業務において様々な変更・改修が生じることが予想されます。

働き方改革という言葉をよく耳にするようになってから数年が経ちますが、より一層具体的に動き出したタイミングは、2016年第3次安倍内閣第2次改造内閣)発足時からになります。

この時の基本方針(閣議決定)では、働き方改革を「一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジ」と位置付け、労働制度の大胆な改革を進めるとしています。

まずは、働き方改革法案の概要についてまとめました。

働き方改革法案 概要

いわゆる「働き方改革関連法案」とは、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」のことを意味します。

現代の日本は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」という状況に直面しています。

今後、「就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮することができる環境を作ること」が大きな課題です。

「働き方改革」の目指すもの

多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方それぞれがより良い将来の展望を持てるようにすること

「働き方改革法案」7つのポイント
  1. 対象者 派遣やパートだけ?
  2. 36協定に関連する労働時間の是正
  3. 多様で柔軟な働き方の実現
  4. 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
  5. 中小企業・小規模事業者の対応
  6. 業種別働き方改革法案への対応
  7. 守らない場合には罰則も!

「働き方改革」は、働く方の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現を狙いとしています。

「働き方改革」の背景とは?
「働き方改革」が検討された背景には「労働環境を見直し、生産性を向上させたい」という政府の思惑があります。
また、労働人口の減少や少子高齢化など、長年続く日本の社会問題も検討を促進させた要因です。

では、働き方改革法案を知る上で重要になる「働き方改革法案」7つのポイントについて詳しくご紹介いたします。

働き方改革法案ポイント①対象者 派遣やパートだけ?

働き方改革法案画像

「働き方改革」の実現に向けた厚生労働省の取組みとして、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保のための措置」があります。

正規雇用労働者非正規雇用労働者の間にある不合理な待遇の差を解消することを目指しており、どんな雇用形態でも、納得した環境で多様な働き方を自由に選択できるようにします。

派遣等の非正規雇用やアルバイト・パート労働者についても対象となりますので、要点をまとめました。

対象者(1):派遣等の非正規雇用

派遣労働者については、下記いずれかの待遇を確保することが義務化されました。

  • 「派遣先の労働者との均等・均衡待遇」
  • 「一定の要件(同種業務に就く一般労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であることなど)を満たす労使協定による待遇」

対象者(2):アルバイト・パート労働者

働き方改革法案により、アルバイト・パートタイム労働者については、下記の待遇を確保することが義務化されました。

  • 「同一企業内における正規雇用労働者との不合理な待遇が禁止」

働き方改革法案バイトパート画像

また、派遣社員や契約社員、アルバイト・パートなどの非正規労働者のうち、雇用期間が定められている有期雇用労働者については、下記の待遇を確保することが義務化されました。

  • 「正規雇用労働者と「職務内容」や「職務内容・配置の変更範囲」が同一である場合の均等待遇の確保」

現在の日本では、ほとんど同じような仕事をしているにも関わらず、正規労働者非正規労働者との間で、賃金格差が発生しています。

現在の非正規労働者の賃金は、正規労働者の6割程度となっており、このデータは欧州主要国の8~9割に比べると大きな差があり社会問題となっています。

尚、この格差を何とかしようと考えられたのが、「同一労働同一賃金ガイドライン案」です。

同一労働同一賃金ガイドライン案とは?
パート社員などの非正規雇用労働者と、正規雇用労働者との間に生じた不合理な格差の改善を目指すものです。
労働者の雇用形態を問わず均等・均衡な待遇とする、同一労働同一賃金を実現するためのガイドラインです。

同一労働同一賃金に関係する「パートタイム・有期雇用労働法」や「労働者派遣法」などは、2020年4月1日から施行予定中小企業の「パートタイム・有期雇用労働法」の適用は2021年4月1日から)となっています。

働き方改革法案ポイント②36協定に関連する労働時間の是正

では次のポイントでは、36協定に関連する労働時間の是正についてご紹介いたします。
まずは「36協定」について簡単にまとめました。

36(さぶろく)協定とは?

働き方改革法案画像36協定」とは、時間外休日労働に関する協定」と呼ばれる労使協定のことです。

労働基準法」の第36条に規定されているため、36協定(三六協定)と呼ばれています。

皆さんもご存知の「労働基準法」は労働条件について最低限の基準を定めた法律です。
原則として1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超える労働を認めない等の決まりがあります。

しかし、労働基準法第36条では、事前に労働組合等と使用者が書面による協定を締結し届け出を行うことによって、法定労働時間を超えた時間外労働や休日労働をさせることができるとしています。
36協定は、このように労働基準法が定めた基準を超えた時間外休日労働を認める労使協定のため、適正な法令遵守が必要になるのです。

長時間労働時間の是正

日本の労働時間は欧州諸国と比較して長いです。

仕事と子育てや介護を無理なく両立させるためには、長時間労働を是正しなければなりません。
つまり、長時間労働という問題点を改めて正さなければ改善されないのです。

【原則】時間外労働の上限規則
  • 月45時間以内(法定時間外労働のみ)
  • 年360時間以内(法定時間外労働のみ)

働き方改革関連法が成立したことにより、36協定がある場合(臨時的な特別な事情がある場合)下記の上限規制が導入されます。

【特例】時間外労働の上限規則
  • 単月100時間未満(法定時間外労働+法定休日労働)
  • 2~6か月平均で月80時間以下(法定時間外労働+法定休日労働)
  • 年720時間以下(法定時間外労働のみ)

※月45時間を超えることができるのは年6か月以内

更に、長時間労働是正の一環として、年5日の年次有給休暇の取得義務化や、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保する「勤務間インターバル制度」などの導入が努力義務化されました。

一定時間以上の休息時間を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保することが出来ます。

働き方改革法案ポイント③多様で柔軟な働き方の実現

政府が掲げる働き方改革の一環として、多様な働き方は注目を集めています。

企業の成長に活かす「ダイバーシティ経営」

働き方改革法案ダイバーシティ画像

ダイバーシティ(Diversity)」は、直訳すると「多様性」を意味しています。

「違いを受け入れ、企業の成長に活かすという考え方」です。
企業においては「ダイバーシティ経営」という使い方をする場合があります。

性別、年齢や国籍、障害の有無のほか、考え方や価値観の相違、正規や非正規という雇用形式、フレックスタイム制や短時間勤務など。
「ダイバーシティ」という言葉は様々な「働き方」を意味しており、多様さを活かして企業の競争力に繋げる経営上の取組みのことを呼びます。

元々はアメリカで始まったダイバーシティ経営は、現在の日本では「女性の活躍や女性管理職を増やす」という意味で使われることが多い言葉となっています。
本来の意味はより広く、取組みを進める企業が増加しています。

場所や時間にとらわれない「テレワーク」

働き方改革法案テレワーク画像

テレワーク」は、情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した、「場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」のことを指します。

「テレ(Tele)」は英語で「離れた」という意味。
「ワーク(Work)」は「仕事」という意味です。
「テレワーク」は「離れた場所で行う仕事」という意味の造語になっています。

PCやスマホなどのITツールを活用しながら、1週間に8時間以上離れた場所で仕事をする方は、テレワークをしている状態とされています。

日本では、テレワークの利用や副業・兼業を認めている企業はまだまだ少ないのが現状です。
子育てや介護と仕事の両立推進の手段となる「テレワーク」について、今後も普及に努めていくことは働き方改革において重要な課題の一つです。

働き方改革法案ポイント④雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

また、同一労働同一賃金など、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保も必要です。

現在の日本では、同じような仕事をしている場合も、正規労働者と非正規労働者の間には賃金格差福利厚生の待遇に格差が生じています。
この問題はアルバイト・パートタイム労働者に、特に関わってきます。

もちろん、正規労働者と非正規労働者の仕事内容や勤続期間などの条件が違う場合は、待遇に差が生まれるのは仕方がないことです。
働き方改革法案は、待遇差そのものを禁止していません。

その代わりに、その待遇差は「不合理」であってはならないと定め、企業はきちんと待遇差の理由を説明することが義務付けられたのです。
不合理な待遇差についてはこれまでも禁止されていましたが、今回の法改正により「有期雇用労働者」も対象に加えられました。これらは大きな前進と言えるでしょう。

例えば、アルバイト労働者であるあなたが企業側に「どうして正社員と時給や福利厚生条件が違うんですか?」と聞いた場合、企業側がきちんと説明できない場合には、その待遇差は「不合理」であるとみなされやすくなります。

働き方改革法案ポイント⑤中小企業・小規模事業者の対応

下記のグラフは、「働き方改革法案が施工されることで、経営に支障が出そうな法案は?」という質問を企業向けに行った結果です。

約5割の企業が働き方改革法案により「経営に支障が出る」と回答しているなかで、特に支障が出そうな法案の上位5位まではこれまでご紹介した内容が占めており、そのうち4番目に割合が多い「中小企業の時間外割増率猶予措置の廃止(2023年4月以降)」については、こちらでご紹介したいと思います。

【調査結果】改革法案によって経営に支障がでそうな法案は?

働き方改革法案中小企業画像
働き方改革法案が施工されることで、経営に支障が出そうな法案は?
  1. 時間外労働(残業)の上限規制 66%
  2. 年次有給取得の義務化 54%
  3. 同一労働同一賃金の義務化 43%
  4. 中小企業の時間外割増率猶予措置の廃止(2023年4月以降) 29%
  5. 勤務間インターバル制度の普及推進 11%

働き方改革は、日本の雇用約7割を占める中小企業・小規模事業者において着実に実施することが必要です。

中小企業での残業60時間越の割増賃金率引き上げ

2010年の労働基準法改正にて、1ヶ月あたり60時間を超える時間外労働に対して、5割の割増率で計算した割増賃金を支払うことが決定されました。
しかし、中小企業については当面の間、割り増し率の適用が猶予されていました。<労働基準法138条>

これに関しては、2014年8月頃から猶予を見直すことが検討されていましたが、2023年4月1日から中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予が廃止される法律案が提出されました。

「働き方改革関連法案」は2018年6月29日に参院本会議で可決、成立しました。
施行日2019年4月より順次、関連法令の改正が施行されます。

中小企業は施行日(2023年4月1日)以降、月60時間を超える法定時間外労働に対して50%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

「中小企業」の定義とは?
資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主、及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。
働き方改革法案中小企業画像

働き方改革法案ポイント⑥業種別働き方改革法案への対応

改革法案によって経営に支障がでそうな法案について、調査結果を業種別に見ると「メーカー」や「広告・出版」は他業種とは違う結果となっていることが分かります。

働き方改革法案業種別働き方改革法案への対応画像 働き方改革法案業種別働き方改革法案への対応画像

【メーカー】働き方改革法案が施工されることで、経営に支障が出そうな法案は?
  • 同一労働同一賃金の義務化 62%
  • 中小企業の時間外割増率猶予措置の廃止 41%

メーカーの調査結果では、他業種でも割合の高かった「時間外労働(残業)の上限規制」と同じ割合で「同一労働同一賃金の義務化」が62%と高い割合の結果になっています。
また、「中小企業の時間外割増率猶予措置の廃止」が41%と高い点も特徴的です。

【広告・出版】働き方改革法案が施工されることで、経営に支障が出そうな法案は?
  • 年次有給取得の義務化 70%
  • 勤務間インターバル制度の普及推進 30%

広告・出版の調査結果では、「年次有給取得の義務化」が70%と最も高く、現場の「年5日の年次有給休暇の取得義務化」実施や、時間外労働(残業)を減らすことの難しさを数値が表す結果となりました。

今回の調査の結果から、働き方改革法案が施工されることで経営に起こる支障は、業種により傾向が異なることが分かります。

今後は、時間外労働(残業)を上限規制内にセーブするため、また年次有給取得を年5日取得するためにどの様に変わっていけばいいのか。
意識と業務内容の見直しが全ての業種に共通して必要となります。

働き方改革法案ポイント⑦守らない場合には罰則も!

働き方改革法案画像

今回の働き方改革法案には守らない場合の「罰則」もあります。

現在の労働基準法での所定の労働時間は原則1日8時間・1週間合計で40時間までと決められています。

もちろん現実的には日々の残業や休日出勤などが発生する為労使協定(36協定)を労働者の代表と契約し定める範囲内で企業は社員に時間外労働をさせることができます。

しかし働き方改革法案が施行されると36協定を締結しても、企業は1か月100時間以上もしくは2~6か月での月平均80時間超となる時間外労働および休日労働をさせることができなくなります。

これらの時間を超えて時間外労働や休日労働をさせると罰則が科せられてしまいます。

働き方改革法案での時間外労働に対しての罰則
  • 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

働き方改革法案まとめ

働き方改革関連法案」は2018年5月31日に衆議院で、同年6月29日には参議院でそれぞれ可決され、成立しました。

2019年4月から順次、労働基準法を始めとする関連法令の改正が施行されます。

「働き方改革法案」7つのポイント
  1. 対象者 派遣やパートだけ?
  2. 36協定に関連する労働時間の是正
  3. 多様で柔軟な働き方の実現
  4. 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
  5. 中小企業・小規模事業者の対応
  6. 業種別働き方改革法案への対応
  7. 守らない場合には罰則も!

「働き方改革」は、働く方の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現を狙いとしています。

今後、長時間労働や時間外労働(残業)、雇用に関する改善が行われ、私たち労働者にとっては柔軟な働き方の実現が可能となることでしょう。

しかし、実際の法案施行にあたっては企業側で調整するべき課題が多く、現実問題として「働き方」が改革出来るのかという大きな課題を抱えています。

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